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飛鳥京香/SF小説工房(山田企画事務所)

飛鳥京香/SF小説工房(山田企画事務所)

ロボサムライ■第二章新東京

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RSロボサムライ駆ける■「霊戦争」後、機械と自然が調和、人間とロボットが共生。日本・東京島「徳川公国」のロボット侍、早乙女主水が 日本制服をたくらむゲルマン帝国ロセンデールの野望を挫く戦いの記録。

■ロボサムライ駆ける■■第二章 新東京
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yamada-kikaku.com/
■第二章 新東京

   (1)
 東京湾は、この日「日本晴れ」と呼ばれる晴天であった。湾のまわりには、かつて存在した東京工業地帯は跡形もない。かわりに緑豊かな植物群で覆われている。
 湾の中央に島がある。第二首都都心として形成された、この東京島は現在徳川公国の領土となっている。

公国の中心には東京城が建築されていた。
 西を遠望するに富士がきれいに見える。霊戦争後、急激に復興した自然界は、日本を中世世界とわせるほどその景観を変えていた。また、人々のライフスタイルも変化していて、それは、政治体制を変化させ、霊戦争後の世界は民族主義の動きに覆われていた。

 古代の民族古来の習俗に戻ろうという心の動きが顕著になっていた。現在の世界は機械文明と自然が調和した民族主義世界となっている。東京島を巡る運河エリアは、真昼の太陽を照り返している。運河面に魚が動き、跳ね上がる。東京湾も浄化され、魚の遊弋する場所となったのである。

 その東京湾に、水面に釣り糸を垂れた川船が、一隻のんびりとたゆとうていた。
「世が世なら、大名にもなれたものを」
 川船の中で男が一人寝そべっている。
 太陽に向かって主水(もんど)は唸っていた。

早乙女主水(さおとめもんど)。

今日は着流しをきてくつろいでいる。刀の大小は床の間にかけてある。無論、
日本の武士のように髪はゆうている。京人形のような顔をしていた。といいたいが、すこしばかり、体重オーバーの顔だった。はれぼったい顔だった。アンパンマンみたいな顔だった。
 つまり、その顔だけ目立っていてごつかった。
 が、一重の目には、意志の強いきりりとした眼差しがある。ロボットでも何か救いがあるものである。
「だめですよ、あなたはね、人間じゃないのですから」
 そばに同じように寝そべるマリアが言う。寝ているといってもHしていたわけではない。

「どこまでいってもね、ただのロボザムライなのですよ」
 先程の「大名に」に対する答えだった。
 きれいな音声でシニカルに男の夢を履き捨てる女だった。これは人間もロボットも変わらないようだ。
 彼女の名は、マリア=リキュール=リヒテンシュタイン。

 緑の眼をしてハシバミ色の髪を、今日は、日本髪に結っていた。そして留め袖の和服を流麗に着こなしていた。が時には、ヨーロッパの貴夫人の姿形を取るときもある。こちらは典型的なアンチックドールの顔だ。なにしろヨーロッパの貴族ロボットなのだから。

 ときおり、言われるのだが、マリアは美意識がおかしいのではないか、ゲテモノ趣味ではないか。目がおかしいのではないか、という評判である。
 というのは、天下ひろしといえども、これほど似合わないカップルもめずらしいのである。
 この間など、新東京の盛り場を、二人が歩いているとこう言われたのである。
「へええ、かわいそうにね、あの奥さん」
「そうよね、きっと何かあるのだわ」
 ともかく、主水が、ゲルマン留学のおり、連れて帰って来た女性ロボである。
 主水には、額に切り傷がある。これは、ゲルマンのハイデルベルグで、マリアを巡っての決闘のおり、切り込まれたものだ。相手はザムザ=ビスマルク。名前からもわかるとおり、あのビスマルクの子孫につながるロボットである。
 ともかくも二人は神聖ゲルマン帝国で出会い、いまここにいるのである。
 ゆったりとした風が川船を通り過ぎて行く。二人は思い出に耽っているのである。

 思い出にふける二人のもとへ騒音が駆け込んできた。
 川舟に埠頭から、クレーンが懸かる。
「だんな、だんな」
 クレーンの上をかける音が、本人よりさきにきた。

おまけに履いていた鉄ゲタが先に飛んで来た。主水の頭にコチンと命中する。
「こらっ、鉄」
 鉄ゲタを避けられなかった主水は自分にも怒っている。
「あらっ、これりゃあ、すみません。だんな、そんなにのんびり釣りをしている時じゃありませんぜ」
 いなせな江戸時代の町人姿のその男は、人工汗を吹き出していた。特殊手ぬぐいで汗を拭く。そして、絞り上げた。船の床は水浸しだ。
「鉄、まあ、落ち着け。魚が逃げる」
「これが落ち着いていられますかってんだー。ラブ・ミー・テンダー」
 と大慌てである。

「何事なのだ、鉄」たたずまいを整えて、もんどは尋ねた。
「それがね、だんな、えっー…と…。あれ、いけねえ、慌て過ぎて忘れちまった。ちょっと、まっておくんなせえよ」

 この男、びゅんびゅんの鉄。性格を一言でいうと、慌て者である。主水のために働いている。いわゆる情報収集者だ。考え込む鉄の眼に先刻から垂れている主水の釣り糸が眼に入る。
「それより、だんな、引いてますぜ」
「何だと、それを早くいわんか」
 ところがこの魚がくせ者である。
 主水の竿をぐっとひっぱる。かなりの力だ。普通の魚ではない。大物である。慌てて主水、
「おい、マリア、鉄、わしの体をもってくれ。水にひっぱりこまれそうだ」
「魚を放しなさいませ。そのほうが簡単じゃございません」
「そうでさあ、だんな、そのほうが早いや」
「な、何を言う。この竿は徳川公からいただいた由緒ある竿…」

 と言ってる間に竿から勢いがすっと抜ける。 今度は魚の方が飛び上がってくる。口を切っ先のようにとがらせて、主水の体を狙ってきた。といってもキスを求めているのではない。かみ砕こうというのだ。

「あぶない。ノーキッス」
 体を伏せる主水。その上を魚が飛び去る。
「えーっ、ありゃ、あの魚はきすじゃありませんぜ。でも旦那もすきがないなあ」
 その状態でも、ダシャレを忘れない鉄である。
 魚はまるでロケットだ。船を飛び出して再び水の中へ。

「あの魚、ひょっとして」
 主水が疑いの眼差しでいう。
「何だってんですかい」
 キョトンとして鉄。
「サイボーグ魚」マリアがつぶやいた。
 サイボーグ魚は、霊戦争後、出現した新しいタイプのロボット魚類だ。非常に頭がよく、攻撃性も抜群である。各国とも攻撃兵器として開発しているのだ。
「そうだ、すると…、いかん。危ない」
 主水は両肩で二人を床へねじ伏せた。水が白いしぶきを上げる。一瞬の後、船の両舷から一斉に魚の大群が飛び上がり、船を襲った。 スタスタスタと音を立てて、魚が何匹か体に突き刺さる。残りは交差し、海中へ。二三匹、鉄の目の前に刺さる。
「うわっ」
 鉄は叫ぶ。
「大丈夫か、鉄」
「ちょっとかすったくらいでさあ。おめいら、交通信号をまもらんかい」
 急に強気になった鉄が言う。
「マリア、ムラマサを取ってくれ」
 主水の愛剣ムラマサがすらりと引きぬかれる。太陽をうけて、りゅうと光る。
「よし、次の攻撃だな」
 ムラマサを抜き放ち、構える。
 再び、魚が、今度は、船の前後から襲い掛かってきた。
 瞬間、主水の刀が走った。人間の眼にもとまらない。サイボーグ魚のなますが船のうえに山積みとなる。

主水の動きと魚の流れが交差し、すさまじい光と音と熱があたりを覆った。
「さすがは、だんなだぜ」
 サイボーグ魚のなますをつつきながら鉄は言う。
「鉄、これをあてにして、一献、ロボット酒でも」
「主水、おいしそうなお話しですけれど、前をご覧になった方が」

 続いて、巨大な水泡が目の前に近づいてきている。
「ひょっとして…」
 主水の人工皮膚の顔色が変わっていた。
「何か、心当たりでもあるんですか」
「このような水泡に帰す企てをくわだてる者、これは……」
 目玉が飛び出しそうである。
 その時、海面から二十メートルはある、その巨大な魚が浮かび上がる。それを見てのけ反る主水。
「うおっ」
「旦那、あっしはぎょっとしたねえ」
 小ぶりなシャレで応酬する二人。
 そいつは魚に見えたが、背鰭のところが開く。中から、坊主頭で紺の作務着を着た三十がらみの男が出て来て、腕組みをする。

「さすがは主水、サイ魚を切り刻んだか」
 男は無念そうに船上の主水を睨む。
 サイボーグ魚。略してサイ魚である。
「サイ魚法師、久しぶりだなあ。お前が絡んでいるのか」
 主水がキッと男を睨んでいた。
「ふふん、主水、ほんの挨拶がわりだ」
 サイ魚法師は、頭をずるっと撫でて、主水を見返した。
「挨拶ありがたくちょうだいいたす。が、法師、それだけであらわれてきたのではあるまい」

 主水、ムラマサは構えたままだ。
「そうだ。これからの道行で、いずれ雌雄を決しなければならんからな。また、そこなお内儀にも挨拶がてらだ。外国ロボットとはいえ、なかなか見目麗しい女性ではないか」
 サイ魚法師は、こころなしか、うらやましそうな顔をした。
「あら、どうもありがとうございます、サイ魚法師さんとやら」
 マリアがやんわり受け流した。
「このやろう、おべんちゃらをいいやがって。俺もいいいたいじゃないか」
 鉄は着物の袖をまくりあげていた。どうやら興奮している。
「あら、鉄さん、その言葉はどういう意味ですか」
「いや、姉さん、そう悪くとっちゃいけあせんぜ。たんなるお世辞だい」
 鉄はマリアに睨まれ、真っ赤な顔をした。
「お世辞はよしてくれ、法師」
「あら、あなたなにをおっしゃるの。せっかく、サイ魚法師さんが、あたくしを誉めてくれたんじゃありませんか」
「だまっておれ、これは男どうしの話しあいだ」
 ムッとする主水。
「あれ、旦那、そんなこといって、あとでマリアねえさんが怒ったってしりあせんぜ」主水は鉄の言葉を無視してしゃべる。
「これからの道行きだともうしたな。私がどこかへでかけるというのか。また、そのことなぜ、知っている」
「これはしもうたわ。貴様、まだ、聞いてはおらなんだか」
 サイ魚法師は、顔をくしゃっとした表情にして、自分の頭をつるりとなでた。
 さては…、主水は思いつくことがあった。
「さては、法師、ロセンデールに雇われたか。貴様日本人でありながら、外国人に魂を売ったか」
 どうやら、当たりらしい。サイ魚法師が答える。
「ふふん、主水、何をアナクロニズムな言葉を吐くんだ、お主はいまごろ国籍にとらわれることなどあるまい。だいたい、ロボットに魂などないわ。お前はロボットだ。どうあがいたところで、日本人になることなどできまい。お前自身が日本人というよりも、徳川公国の使い番だからな。主水、そろそろとどめをさしてあげようぞ」

 サイ魚法師が、潜水艦のブリッジから身を乗り出して怒鳴っていた。
「鉄、マリアをたのむ」
「だんな、どこへ」
「ちょっと一仕事だ」
 軽く言う。
「主水、大丈夫ですか」
「マリア、心配無用」
 主水は、愛剣ムラマサを上段に構える。
 その瞬間、再びサイボーグ魚が、主水めがけて、水面から発進した。そのとき、主水は上空へ跳躍する。
 わずか数センチしたの足元を、サイ魚の大群が飛び過ぎる。
 そのサイ魚の群れを、板を踏むのように足で踏み付け、飛び石のように潜水艦になだれ込む主水だった。
 人間の目にとまらない技。さすが徳川公直属旗本ロボザムライである。ブリッジに主水はいた。刀を構える。
「サイ魚法師、かくご」
 驚くサイ魚法師。
「まて、主水」
 サイ魚法師はもう逃げ場がない。
 名刀ムラマサが潜水艦「越月(えっきょう)」の艦橋を切り抜く。音立てて、船橋の右肩が少しずつ倒れていく。その切片がずぶずぶと海中に沈む。
「うわっ、やめんか、主水」
 サイ魚法師は、船橋内部の階段を転がり降りる。
「おしい」
 にやりと笑う主水。まだだいぶ余裕がある。
 ムラマサは、すでに艦橋上四分の一を切り離していた。
「さすが、殿から拝諒いたした刀ムラマサ。すごい切れ味じゃ」
 逃げ出そうとする潜水艦。
「逃げるな、法師」
 続いて艦橋から外側に飛び降りながら、船体横に着地するまで、主水はムラマサを数百回横に払い続ける。

 次々、艦橋金属部分がササラカマボコのように切り離されていく。
「やめろ、主水」法師は泣き声をあげる。
「降参する。後生だ、やめてくれ」
「ならぬ、攻撃を仕掛けたのはお前だろう。この潜水艦、切り刻み、東京湾のサイ魚のエサにしてくれるわ」
「みな逃げろ。主水め。やりよった。一人でこの潜水艦を切り刻むつもりだ」
 サイ魚法師が、潜水艦の乗員に警告を与えていた。

まさにクモの子を散らすようにハッチから乗組員が飛び出して来る。
 遠く川船の上で、主水の様子を見ているマリアと鉄がしゃべっていた。
「大丈夫ですかね」
「どちらが、主水、それともサイ魚法師さん?」

「ねえさんも人が悪いや。サイ魚法師に決まっているじゃありませんか。だんなも刀を使い始めると見境がないからなあ。キジルシだからなあ」
 腕組みをして観戦している鉄が言う。
「ふふん、あたしもそう思います。サイ魚法師も時期を選ばなきゃいけませんよね」
「じゃなにですかい。だんなは今…」
「そうです。あの方は、いま気分が一番悪い時期なのです」
 ロボットにもバイオリニズムがあるのである。
 サイ魚法師と逃げ出した潜水艦の乗組員は、ゴムボートをサイ魚の大群に引かせて逃げて行く。
「あーあ、やっとあいつら、逃げよった」
 主水は泳ぎ、帰って来る。
「それで、鉄、どんな用だ」
 一仕事を終えた主水が、舟に戻ってきて尋ねる。
「そうだ、いけねえ、お上(かみ)がお呼びですぜ」
 急に鉄は思い出した。
「何、殿がお呼びだと、早くそれをいわんか」
 今度はも主水が大慌てである。何しろ、主君、徳川公のお呼びなのである。


   (2)
 新東京で新しく建てられたランドマークがある。東京城はその一つである。
 東京城城中。最上階、主上の間、広々とした六四畳の広さである。主水は正装をして、徳川公の前に畏まっている。
 第二五代徳川公、徳川公廣。六七才。公家のような温和な顔をしているが、歴代の徳川公の中で切れ者と言われている。この徳川公でなければ、東京島はできなかったろう。クールな頭脳が売り物である。特別製の絹の着物を羽織っている。徳川家康そっくりの顔をしていたが、これはどうも整形ではないかという町の噂である。

 この東京島の五分の一を占めるのが東京城である。
 一〇層だての建築物はバイオ木材で作られている。

このバイオ木材は特別製で季節、天候によって建物自体の色彩が変化し、変幻自在だ。現在では、東京の観光名物になっており、一部分は、観光客に解放されている。最上階は関東新平野を見渡せる展望オフィス。

ここが主上の間である。
 徳川公はビジネスマンとしても優秀で、バイオ植物産業、サイボーグ魚養殖、観光事業などいろんな方面に手をだしていた。
「まずは一服、どうじゃ主水」
 二人の間に茶道具が並べられている。この時期でも一緒に茶を飲むというのが心を開いているという証拠になっていた。人間の徳川公とロボットの主水が同じ茶を飲む。
「これは殿、恐悦至極に存じます」
「これは、私が作り上げた茶じゃ」
「う、うまい。乙な味。はて、この銘柄は何でござりますか」
「機械茶二八号鉄人じゃ。どうじゃ主水、味は。日本精神がよ~く馴染んでおろうが」
「ははっ、なにか夜の空を見ると、ガオーッとほえたくなります」
 この機械茶の栽培も、徳川公は手掛けていた。新静岡に広大な茶畑を持っているという。ロボット用の茶であるが、人間も飲める。ロボットは、この茶を飲むことで落ち着くことができるのだった。ICに微妙に影響を与えるらしい」
「ははっ、五体臓腑に日本精神が染み入りましてございます。で、殿、今度の御用の向きは」
 しっとりとした茶が、主水の体の細部に染み渡って行く。
「そうじゃ、その珍しい茶を飲ましたのは他でもない。お前に、西日本へ下ってほしいのじゃ」
 クールな顔で徳川公は命令する。
「と、申しますと、何やらよからぬ企みが、またぞろ首をもたげてまいりましたか」
「ロセンデール卿を知っておるか」
「ははぁ、ヨーロッパで会っております…」
主水は言葉を濁した。これはこの茶のせいではない。すくなからぬ因縁が、二人の間にあるのだ。むろん、それは徳川公も承知のことだ。
 「あやつが、どうやら、日本を狙っておる。卿の自家用空母『ライオン』が、世界一周を計画し、今は『大阪港』に停泊しておる」
「大阪ですと。では西日本で何か活動を……」
「あやつらは、大阪に機械城なる前進基地を建設しよったのじゃ」
「で、そやつらの狙いは、おそらく…」
 主水はロセンデールの狙いに気付く。主水の眉が吊り上がっていた。その表情に徳川公はきずく。
「余もそう思う。奴らの狙いは京都にのぼり、日本の心柱(しんばしら)を発見し、この日本を領土にしたいと考えておるのじゃ。西日本に走れ、主水」
「は、いますぐにでも」
 走る姿勢を取る主水である。昔なつかしいエイトマン姿勢であった。BGMが聞こえてくるようだった。
「慌てるな、主水。ところで、貴公、その姿勢は何じゃ」
「はっ、わからないのですが、走れといわれますと、ついこの恰好をとります」
 過去のロボットの記憶がICに詰め込まれているらしい。
「まあ、走れと申しても、本当に走らぬでもよい。西日本で一週間後、都市連合会議が開かれる。そこに東日本エリア代表としての霊能師『落合レイモン』が遣わされる。この『レイモン』の使いとして紛れ込め。ともかくあのちでは、ロボットは、奴隷じゃからのう」
しばらくして徳川公はつけつわえた。
「そうじゃ、足毛布(アシモフ)博士に会ってきたらどうじゃ」
 ぐっと睨む徳川公。
「おかみ、それは、どうも」
 続く言葉が主水を驚かせる。
「いや、どうも足毛布博士、ロセンデールと結びついているやもしれん」
「まさか、そのような可能性が…」
 呆然とする主水。
「残念じゃが、可能性はある」
 徳川公は、東日本都市連合の副議長を努めている。

この議会で落合レイモンの派遣が決まっていた。また、西日本の動きにも、目をつけている。東日本と西日本はいわば微妙な敵対関係にある。
「レイモンと申しますと、あの薬(やく)づけのレイモンでございますか」
 突然に出て来た名前に心を動かされた。
「そうじゃ、いかに薬づけであろうと、レイモンが東日本エリアでは、最大の霊能師であることは間違いあるまい」
「それはたしかに……」
 『薬づけ』の意味は、落合レイモンはもともと体が丈夫ではなかったらしい。幼いころレンモンは、生体防護チューブにいた時、何かの霊に取り付かれて霊能師となった。体を保つために一日に百種類の薬品が必要と言われている。
「主水、お前はこのあと、落合レイモンのところへ行き、今度の主なる目的を尋ねよ」
「それでは、御主上も今回のレイモン様の旅の目的をはっきりとは」
「わからぬ。落合レイモンは、東日本都市連合では顔が効く。それゆえの派遣じゃ。が、お前も存じておろうが、余は霊能師をこころよく思ってはおらん。が、あやつらの助けがなければ、この日本を救うことなど不可能じゃ」

「一体、いつの時代から、あやつら、霊能師が力を持つようになったのでしょうか」
「余が父君より聴いたところによると、やはりあの霊戦争のあとと聴いておる」
 霊戦争後、霊能師がこの世界で大きな役割をしめるようになつたのは、彼らが非生物、生物をとわず、その物体の『声』を聞けるからだとされている。あちこちにしゃべる霊が数多く出現している世界なのである。徳川公は急に話題を変えた。
「それで、病気はどうじゃ」
「えっ、なぜ、お上がそれを……」
 突然の質問に、主水はあわてた。が、それは主水の勘違いであった。
「何をいっておる。マリアの例の病気のことではないか。ほら、あの姉のパーソナリティがでるのではないかと尋ねておるのじゃ」
「さようでございますか。拙者てっきり……」
 安心する主水。
「何か、お前、病気なのか」
 不審な顔で主水の顔をのぞき込む徳川公である。
「いえ、まさか、そのようなこと、この私に」
 心の中で冷や汗がでる主水である。本当は、主水には最近ある病状がでていた。その表情に気付かず徳川公は、
「それならよいが。まあマリアにも気をつけてあげよ。ともかくたったひとりの姉がのう……」
 その姉がロセンデールと深い関係にあるとは、徳川公は知らなかった。
 主水は東京城を辞した。
■ロボサムライ駆ける■第2章
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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